プルースト読書会 vol.1

今年から始まった『失われた時を求めて』読書会の第1回。吉川一義岩波文庫版全14冊を月1冊ずつ読んでゆく。本当に読みやすい訳であり、註、地図、図版の配置と相互リンクが目を見張るすばらしさで、これならついてゆけそうだ。第1巻で第1篇「スワン家のほうへ」第一部「コンブレー」を読んだ。参加者がそれぞれ注目するパッセージを紹介する形式。ぼくが選んだのは362頁の「それが私をいやおうなく夢想にいざなうのは、コンブレーという名前のなかに、現在の小さな町だけではなく、それと異なる都市がつけ加わり、キンポウゲの下になかば隠れて理解不能となった昔の相貌が私の想いをとらえるからだ。」という一節。この部分の直前に、コンブレーのヴィヴォンヌ川流域に残る往時の建物の残骸は地上に降り立った過去である、という記述があって、引用冒頭の「それ」へとつながる。地味なパッセージかもしれないが、ひとつの場所が別の時空へと接続するプルースト詩学のエッセンスがにじみ出ているように思える。その直後キンポウゲへとフォーカスが推移するところもまたよい。ここを読んだとき、なんだかグリッサンを思い出した。グリッサンもまたひとつの場所を別の場所と接続して世界を語っていったのだった。

プルーストを読むという行為は、読者自身の人生にプルースト的想起を促すように思われる。そうして想起されるものを書き留めること、それこそがプルーストを読む究極の意味である、などと気障なことを言ってみたくなる。