オレリア・ミシェル『黒人と白人の世界史』

立命館大学国際文化研究所プロジェクト、西成彦先生主催の「ジェノサイド×奴隷制」第2回研究会にオンライン参加させていただいた。前半は中村隆之さんによる本書の解説とディスカッション。中村さんが解説されているように、本書は奴隷制/人種問題を考察するための基本書である。ニグロという虚構/白人という虚構、という本書の肝である他者表象のメカニズムはサイードの『オリエンタリズム』、「奴隷制は人種差別から生まれたのではなく、人種差別が奴隷制から生まれた」というテーゼはエリック・ウイリアムスの『資本主義と奴隷制』、そして「奴隷とは自分の生まれた社会を去り、親族性から疎外される部外者」という定義はクロード・メイヤスーの『奴隷制の人類学』(未訳)を踏まえる本書は、「奴隷制」を軸に古代メソポタミアから20世紀半ばまでのオリエント・西洋史を俯瞰するスケールの大きな歴史書である。筆者の情熱と憤りがそこかしこにほとばしり、時として歴史書の枠を踏み越えるように思われるが、一般の読み手にとっては、まったく気にならないだろう。

離れた土地を利用して巨大な富を生産しようとするときに「奴隷」という労働力が必要となる。7~8世紀のアラブ世界の拡大には奴隷売買ルートの発展が伴った。3世紀から13世紀の西ヨーロッパに奴隷制が顕著でなかったという事実は、その時代いかに西ヨーロッパが「田舎」だったかを物語る。その時代の経済の中心は東地中海。十字軍遠征というキリスト教勢力巻き返しのために、暴力の行使と捕虜の奴隷化を正当化する正戦論をぶち上げたのはトマス・アクイナス。そしてなんといっても西洋近代化を支えた大西洋奴隷貿易の詳細とアフリカの奴隷交易網の実態。プランテーション経済圏における黒人奴隷と支配者の白人の接触が、いかに人種という概念を生成したががつぶさに解説される。奴隷制廃止後の19世紀後半~20世紀のネオ・プランテーションの状況も俯瞰するときに、われわれは自らの生活基盤を支える搾取的労働の闇に気づかされる。久しぶりに喝を入れられた読書だった。