ローランド・カークなど

 映画研究会での発表。久しぶりに訪れた秋葉原の変貌ぶりに驚く。なんだこれは!? 駅構内は広々と機能的に整備され、改札を出るとばかでかいビルが目の前に覆いかぶさる。その辺ではメイド姿のティッシュ配り。一昔前のジャンク屋がひしめく雑踏のイメージはどこへやら。景観が変わると方向感覚を失くしてしまう。
 そんな未来都市?のビルの6階で、即興をテーマに2本の音楽映画を紹介。1本目はSound??---Roland Kirk and John Cage。2本目はKarim DridiのCuba Feliz。カークは大好きなミュージシャンの一人である。不幸にも生前は"gimmick"と形容されることの多かった天才にして比類なき努力家だった黒人マルチリードプレイヤーの音楽は懐が深い。60年代といえば公民権運動のさなか、ジャズはバップ、モード、フリーと自己刷新を重ね、いわば進歩史観的なイデオロギーが支配的であった。多くのシリアスなジャズメンは時代の音楽語法を選択することでポリティカルな主張を打ち出していった。そのなかにあってカークがユニークであった点は、もちろん「ブラック」を声高に主張し時代に共振しつつも、ブルースもバップ以前のジャズもパーカーもコルトレーンもフリーもロックも、さらにヴァレーズ的なノイズ音楽までもすべて共時的に自分のプレイにぶちこんだということだ。そこにはさまざまな価値に対する平等で自由で貪欲な姿勢がある。しかもそれらの音楽的要素のひとつひとつがカーク自身の血肉となり身体からほとばしり出るのだ!ごった煮的な即興音楽世界のなんと豊饒なことよ。聴衆や動物?とのコミュニケーションも楽しい。楽音と騒音の区別をとっぱらおうとしたケージの禅問答のようなナレーションのコラージュも効果的。カリブ海の哲人エドゥアール・グリッサンが主張する「全‐世界」tout-monde(さまざまな要素が関係をもちひしめき合う状態を看取する世界観)の姿に、ここで出会うことができる。それにしてもこのフィルム、カーク以外の人物が全部白人なのが気になった。
 2本目の映画ではキューバのフォーク・ミュージックの世界に浸る。映画のつくり自体はドキュメンタリーとフィクションとの境界をさ迷う感じが中途半端で、またストーリー性が希薄なだけにやや冗長さを感じさせたが、そこに映し出される音楽はこの上なく魅力的。特に聴衆との即興的掛け合いがスリリングな「ソン」が最高だ。研究会のあと皆でブリティッシュ・パブに流れたが、そこでトリニダード・トバゴの文学を専攻していた若者からその島とカリプソにまつわるいろんな話を聞く。カリプソもいいよね。打ち上げがはねたあと、カークの初期の名作『ドミノ』を買って帰る。