keith Jarrett solo 2012

渋谷のオーチャード・ホールは満杯である。すごいもんだなと思う。いつものように数分から十数分の短いインプロビセージョンの連鎖。19時開始。前半は7曲(?)。1.テクスチュアが複雑な無調の音楽。クロマチックな動き、さまざまな声が流れのなかから浮上する。2.コラール。和音というより複数の声部が独立に動こうとする。それらがどこに行くのか耳を凝らして追う。3.リズムが出た。アメリカン・インディアン風に聞こえるところもある。4.きれいに響くメロディ、明るくなる。5.1のようなアグレッシブな音楽を弾き始めてすぐストップ。同じようだからつまらないと思ったのかな? 6.バルカローレ。上の方で繰り返されるパターンが気持ちいい。7.せつせつと謳いあげるバラード。Mon coeur est rougeのような左手の伴奏形のうえに展開された美しい旋律。
 後半はいくつの切れ目があったか忘れた。最初は対位法的な動きのある音楽。タッチに力強さが増し、ピアノの音にいっそうの輝きが増す。いいぞいいぞ! 次のはたゆとうレゾナンス。ただそれだけ。フェルトのついた木のハンマーが鉄線を叩くことで広がっていくとても微妙な音響のさざ波を味わうには集中力が必要である。残念なことに、今夜の後半、聴き手の集中力はもうひとつだったような気がする。それから、ひとつの音楽が終わる時の残響まで耳を澄ますべきだ。音楽はまだ終わっていない。拍手でそれを中断するべきではない。熱狂的な拍手は繊細なピアニストをいつも応援するとは限らないんだ...。そのへんがちょっと残念な後半でした。6曲目のガレスピーの「ソルト・ピーナツ」には驚いた。盛り上がった聴衆に応えてアンコールは30分6曲に及んだ。サマータイムや虹の彼方へもよかったが、とくにI Love You Porgyが心に染みた。超高速のラグタイムも興味深かった。キースは隠れたラグタイムの名手だから。21時半終了。いつもの焼鳥屋でいっぱいひっかけて帰宅。