カテブ・ヤシン『包囲された屍体』リーディング上演

 14時より池袋芸術劇場アトリエウエストにてカテブ・ヤシンの戯曲『包囲された屍体』(Kateb Yacine, Le cadavre encerclé,1959)のリーディング上演を見る。鵜戸聡訳、日本初演である。力のこもったパフォーマンスだった。上演後、林英樹さん司会のラウンド・テーブルで鵜戸氏の手際良い解説によって多くを学ぶ。3時間1500円の最高のカテブ・ヤシン入門講座。フランス〈内地〉扱いの地位にあった植民地アルジェリアにおけるアラブ・ベルベル文学運動第一世代、グリッサンよりひとつ下、1929年生まれのカテブ・ヤシンのテクストは難解だ。オリジナル・テクストでは冒頭で延々と詩的なモノローグを展開する活動家ラフダル(だったかな?)を、上演に際して二人の役者さんに分割したのは演出家広田淳一氏のアイディアだそうだ。すごい。舞台は1945年のアルジェリア、カスバのバンダル通り。セティフ事件のさなか。謎の女ネジュマと独立を求める若き活動家たちの物語。登場人物は集合的性格を付与され、劇の進行とともに、死者は生者へと変化し、アルジェリアは古代のヌミディアをはるかにふり返る。拡張された時空を紡ぐスケールの大きな叙事詩劇だ。いつの日か小説『ネジュマ』に挑戦しなければ。2009年からはじまった「紛争地域から生まれた演劇」シリーズは、はからずも今日の日本の右傾化状況のなかでにわかにリアリティを帯びてきた、という林さんの言葉が重く響いた。