古川日出男 第一詩集『天音』朗読会

かつて10年近く暮らした下北沢で迷子になった。午後7時、小田急が地下化してから初めて小田急口に降りると、かつての風景はどこにもなかった。google mapに導かれて店があるはずの場所に向かうが、ない。いったい何が起きたのか。途方に暮れてお洒落な店が軒を連ねるこじんまりとしたスカイウォークをうろうろする。白いツリーのまわりでたくさんの若者が写真を撮っている。代官山あたりのような感じだ。夜のとばりが下りた街中で方向感覚を完全に失うと、夢のなかにいるような気分になった。

BBに電話をして、店が移転したことを知る。井の頭線西口から南に下って、30分近く遅刻して新しいBBにたどり着く。このあたりも綺麗に再開発されていた。行きつけだったジャズ喫茶「マサコ」もなくなっていた。

階段を上り、扉を開けると、古川さんのシャウトが聞こえてきた。46頁か47頁あたりだった(あとで買った詩集で確認した)。久しぶりのうねるような古川さんの朗読。

天音は「てんおん」と読む。その「てんおん」をいう響きがそのうねりのなかで随所に強く打刻されていくのが心地よい。詩人はミューズとともに飛行機でロスへ飛ぶ。なんだ、まったく昨日読み終えたダンテ『神曲・天国篇』をほうふつとさせるではないか。

旅する詩人が放射する言葉をインスパイアするのは、てんおん=ベアトリーチェ=音楽。

 

   そもそも大空には天音がある/音を「おと」と言わずに「おん」と言ってON 

                                   (62頁)

 

そしてまた、文字テクストは楽譜でもあったのだ。それを演奏する古川日出男。小島ケイタニーラブの音楽がバックにつくと、その演奏は一気に変貌した。まさにジャズのインプロビゼーションである。詩の言葉は音楽を携えて踊る。