慈しみに満ちた本を読んだ。「ひとりで居るのは嫌いだった。ふたりでもぱっとしない。家族三人がみんな揃って居るのが好きだった。三年前、不調となりその後衰えて居間ではほとんど寝ているばかりとなってからも、わたしと妻が楽しそうに団欒していると、満…
『イリアス』のあとは『オデュッセイア』に移る。テキストはこちらも松平千秋訳の岩波文庫。『イリアス』との語り口の差異は一目瞭然。奇想天外なエピソードにあふれていて、僕にとっては『イリアス』より面白い。ホメロスは一人ではないという説も十分にう…
15時より駒場18号館でヴェロニク・タジョVéronique Tajoさんの講演会を聴く。『神(イマーナ)の影』(エディション・エフ、2019年)を訳された村田はるせさんが解説された。恥ずかしながら本作はまだ読んでいない。タジョさんは1955年、コートジヴォワー…
慶応大学主催のBernard de Meyer氏講演会にzoomで参加した。メイエ氏は南アフリカ共和国のクワズール・ナタール大学教授であり、アフリカのフランコフォン文学の専門家である。講義タイトルは「ヴェロニック・バングラの滑稽な眩暈:チェルノ・モネネムボ『…
ゼウスはトロイエ勢とヘクトルの勝利を望み、海神ポセイダオンはギリシャ側につく。神々同士の反目が人間の争いと絡み合い、壮絶な殺戮の描写が続く。いくらでも引用ができるが、たとえばアキレウスが次々にトロイエの戦士を倒していく場面。「…ついではムリ…
下北沢K2にて井上春夫監督『眩暈』を見る。映画館の座席についたときぼくはかなり疲労していたのだが、フィルムの時間が流れ出すとその疲労は次第に夢幻的なポエジーの霧に包まれていった。3年前に死去した盟友ジョナス・メカスを悼みNYを訪れる詩人はすで…
管啓次郎研究室主催の長編文学読書会はプルーストから始まり、セルバンテス、ダンテと時空を遡行して、ついにホメロスにたどり着いた。テキストは松平千秋訳岩波文庫。今日は『イリアス』上巻を読む。『イリアス』は再読である。原文はヘクサメーター、英雄…
ずーっと気になっていた、渡邊未帆率いる伝説のカリビアン・バンドTi'PUNCHのライブをついに聴く!四谷三丁目のCON TON TON VIVOは大入り満員。今日は16ピース(だったような気がする)のオーケストラ。粗削りだがパワフル。ミュージシャンの衣装を見てるだ…
三浦逸雄訳『神曲』読書会も今日で最終回。ベアトリーチェとともに、ダンテの主人公はついに地上を離れ天空へと旅立つ。プトレマイオスの天動説を下敷きに、月光天、水星天、金星天、太陽天、火星天、木星天、土星天、恒星天へと上昇する旅である。しかし恒…
かつて10年近く暮らした下北沢で迷子になった。午後7時、小田急が地下化してから初めて小田急口に降りると、かつての風景はどこにもなかった。google mapに導かれて店があるはずの場所に向かうが、ない。いったい何が起きたのか。途方に暮れてお洒落な店が…
シンポジウムは盛会だった。仕事の都合で遅刻して、中村隆之さんの発表の途中から入る。「クレオール、アフリカ、世界:日本におけるフランス語圏アフリカ系文学研究の四半世紀」と題されたその発表は、資料として配布された「20世紀末クレオール論の政治的…
今日は『神曲』読書会第2回、「煉獄篇」を読む。地獄の核心部から一気に南半球の海に浮かぶ山岳島に突き抜けたウェルギリウスとダンテの主人公は頂を目指して煉獄の門をくぐる。地獄篇は地底探検だったが、煉獄篇は登山である。煉獄は亡者の贖罪の場である…
2022年11月26日(土)13時より早稲田大学8号館B107教室において開催される、フランス語圏文学についてのシンポジウムのお知らせです。日本では、2018年日仏会館で行われた国際シンポジウム「世界文学から見たフランス語圏カリブ海ーーネグリチュードから群島…
六本木、国立新美術館でLee Ufan展を見る。もの派は基本的に好きである。李さんの作品は立体作品では石、鉄板、アクリル、木材などをシンプルに組み合わせ、自然と人工のはざまに見る者を連れていく。庭石のような石は白い矩形の空間のなかで鉄板やガラス板…
昨日はよく晴れたが今日は冷たい雨が降った。群馬県榛名山麓の吉岡町で開かれている「ECM&キース・ジャレット写真・資料展」を見に行った。10月7日のPIT INNのチラシでKeith Jarrettの新譜Bordeaux Concertのリリースと、この資料展の開催を知ったのである…
プルースト『失われた時を求めて』、セルバンテス『ドン・キホーテ』に続いて、管啓次郎研究室主催読書会第3弾はダンテ(1265-1321)の『神曲』La Divina Commedia。19世紀末フランスから17世紀初頭スペインを経て14世紀前半のイタリアへと時空を遡行する。テ…
東京は二つ玉低気圧の通過で冷たい雨と強風に見舞われた。おそらく移転後のピットインに行くのは初めてだと思う。中に入ると、とたんにジャズの匂いに包まれた。ああ、ほっとするなあ。東欧から来たトリオについては全く知らない。ウイスキーをロックでちび…
牛島信明訳岩波文庫版『ドン・キホーテ』読書会もついに最終回。最終巻にたどり着いた。ドン・キホーテの狂気は次第に弱まってゆく。物語には盗賊の頭ロケ・ギナールのような魅力的な人物が登場しドン・キホーテは脇に退く場面が多くなる。そして《銀月の騎…
受験に追い立てられていた高校生の頃、帰宅途中に池袋の西武デパートのレコード屋に時々立ち寄り、茫漠とした風景が鮮烈だったECMのジャケットを眺めたり、隣の美術ギャラリーで版画を見るのがささやかな楽しみだった。とりわけ長谷川潔のモノクロームのメゾ…
『ドン・キホーテ』前篇出版が1605年。後篇の出版は1615年である。逆上して人形劇を破壊するドン・キホーテは「拙者には今しがた起こったことがすべて、そっくりそのまま現実のこととして起こったように思われた」と吐露する(47頁)。相変わらずフィクショ…
8月12日、Uが出場する中学ソフトボール全国大会(男子ソフトボールってレアです)の応援に大阪まで車を飛ばす。500km越えのロング・ドライブである。13日、舞洲のグランドで長崎の強豪チームと対戦したが、無念の1回戦敗退。Uはショートで1番。コロナ明けの…
10日間のコロナ感染自宅待機期間が終了。神保町へ繰り出す。偶然入った「はちまき」の天丼が旨かった。量もたっぷりでこれが800円とは驚きである。昭和6年創業の老舗だそうだ。さらに偶然見つけたjazz喫茶Big Boyでアイス・コーヒーを飲みながら小一時間過ご…
コロナに感染してしまった。Uの中学で感染生徒が急増し、16日にUが発熱。2日後にぼく、さらに2日後に妻が発熱。抗原検査やPCR検査で全員陽性だった。幸い3~4日で熱が引き、重症化は免れたが、20日の読書会はキャンセル。とりあえず、本巻の感想を20日の日記…
GWあたりから読み(聴き)はじめ昨日読了。陣野さんのガイドに導かれてそこに登場する音楽を片端から聴いていく至福の時間。夕食後ウイスキー片手にyou tubeをチェックしていると「へえ、お父さんラップなんか聞くんだ」とUは意外そうな顔をした。(そうだ…
2021年1月から2022年2月まで継続された明治大学管啓次郎研究室主催「オンライン・プルースト読書会」の成果がリトルプレスで出版されました。私も、このブログで発表したエッセイのいくつかに手を入れた「コンブレーのメガネ屋」という文章を寄稿しました。6…
今日は牛島信明訳、岩波文庫版『ドン・キホーテ』第3巻を読む。前巻33章から本巻35章に挿入される小説「愚かなもの好きの話」が一読してなんとも居心地がよくなかった。アンセルモがなぜ親友ロターリオに自分の妻カミーラを誘惑させようとするのかが、よくわ…
車を飛ばして横浜シネマリンへ。3月の渋谷UPLINKでの上映を見逃した『森のムラブリ』(金子游監督、2019年)をついに観る! すばらしかった。(敢えて言えば、85分はちょっと短かった。)若き言語学者伊藤雄馬氏が、タイとラオスに狩猟採集民ムラブリ族を訪…
セルバンテス読書会第2回。『ドン・キホーテ』前篇第22章から第34章までを収める牛島信明訳岩波文庫版第2巻を読む。ドン・キホーテは果たして完全な狂人なのだろうか。そうとも言えまい。憂い顔の騎士は徹底的に狂人を、思い姫に恋焦がれる騎士を演じようと…
4月10日にアカデミー賞を取った『ドライブ・マイ・カー』(濱口竜介監督)、5月2日に『ベルイマン島にて』(ミア・ハンセン=ラブ監督)、偶然にもふたつとも劇中劇の構造で成り立つ映画を見た。『ドライブ~』は村上春樹の短編が原作。演出家で俳優の家福が…
明治大学管啓次郎研究室主催の長編小説輪読会(と勝手に名付けました)第二弾はセルバンテス! 20世紀初頭のフランスから17世紀初頭のスペインへとタイム・スリップである。『ドン・キホーテ』は児童書版で読んだきり。大人になってから一度会田由訳で挑戦し…